HOME コラム 【中小企業診断士監修】フリーランスは開業届を「出すべき」?「出さない」方が良いケース&判断に役立つチェックリストを徹底解説
2025.08.28

【中小企業診断士監修】フリーランスは開業届を「出すべき」?「出さない」方が良いケース&判断に役立つチェックリストを徹底解説

フリーランスとして働き始めたけど、「開業届を出したほうがいいの?」「出すとどんなメリットがあるの?」と、漠然とした不安を感じていませんか?

正しい知識がないまま判断を先延ばしにすると、将来的に節税のチャンスを逃したり、事業の信用を失ったりする可能性があります。

この記事では、フリーランスが開業届を出すべきかを判断できるよう、出すことで得られるメリットと、あえて出さない方が良いケースを中小企業診断士監修のもと、分かりやすく解説します。

【「開業届」の用語記事リンク】

1. 開業届を「出す」ことで得られる4つのメリット

開業届を提出することは、事業を本格的に成長させたい方にとって大きなメリットとなります。ここでは、その中でも特に重要な4つのメリットを詳しく解説します。

1-1. 青色申告で節税効果を最大化できる

開業届を出す最大のメリットは、この「青色申告特別控除」が受けられることです。

開業届と同時に「青色申告承認申請書」を提出することで、青色申告者となり、最大65万円の特別控除を受けることができます。この控除を適用すれば、所得税や住民税を大幅に節税できます。

【「青色申告特別控除」の用語記事リンク】

例えば、年間事業所得が500万円の場合、青色申告特別控除を適用すれば課税所得は435万円になります。この控除額は、所得が多ければ多いほど節税効果が高まります。

ほかにも、青色申告には以下のようなメリットがあります。

  • 赤字の繰越し:事業で赤字が出た場合、その赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越すことができ、将来の所得と相殺して税金を減らせます。
  • 30万円未満の減価償却特例:1つ30万円未満の備品(パソコンや机など)を一括で経費にできます。通常は数年にわたって少しずつ経費にしなければなりませんが、この特例を使えば購入した年にまとめて控除できます。

これらのメリットは、開業届を出さずに白色申告を選んだ場合には受けられません。本業・副業を問わず、事業所得を伸ばしていきたい人には特に魅力的です。

【「白色申告」の用語記事リンク】

1-2. 融資や補助金・助成金を受けやすくなる

事業を拡大するにあたって、運転資金や設備投資のための資金が必要になることがあります。その際、金融機関からの融資や、国や自治体の補助金・助成金を活用したいと考える方もいるでしょう。

開業届を提出し、事業の存在を公的に証明できる状態にしておくことは、これらの制度を利用する際の信頼性を高める上で非常に重要です。特に、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や、経済産業省が実施する「小規模事業者持続化補助金」などは、多くのフリーランスが活用しています。これらの制度を利用する際の第一歩として、開業届は重要な書類となります。

1-3. 屋号名義の銀行口座を開設できる

開業届を出すと、屋号を使って銀行口座を開設できるようになります。

【「屋号」の用語記事リンク】

個人名義の口座と事業用の口座を分けることは、経費管理の観点から非常に重要です。これにより、プライベートな支出と事業上の支出を明確に区別でき、確定申告時の帳簿付けが格段に楽になります。

また、取引先に屋号名義の口座を伝えることで、個人事業主としての信用度が高まり、よりプロフェッショナルな印象を与えることができます。企業によっては、個人名義の口座よりも屋号名義の口座を好む場合もあります。

1-4. 小規模企業共済に加入できる(※本業フリーランスの場合)

小規模企業共済は、国が運営するフリーランスのための退職金制度です。加入することで、積み立てた掛金が全額所得控除の対象となり、節税しながら将来の備えをすることができます。

ただし、この制度は事業所得を本業としているフリーランスが対象です。会社に勤めて給与所得がある方(副業フリーランス)は、原則として加入できませんので注意が必要です。

2. 開業届を「出さない」方が良い3つのケース

開業届はメリットばかりではありません。特に以下のケースに当てはまる場合は、提出を急がない方が良いでしょう。

2-1. 失業保険(基本手当)を受給中、またはこれから受給を検討している場合

退職後すぐにフリーランスとして活動を始める場合、失業保険(基本手当)の受給を検討する人も多いでしょう。しかし、開業届を提出すると、国税庁に「事業を開始した」と見なされます。このため、ハローワークからは「就職した」と判断され、失業保険の受給資格を失ってしまう可能性があります。失業保険の受給を優先したい場合は、事前にハローワークに相談し、ご自身の状況に合わせた手続きを確認することが不可欠です。

2-2. 収入が「雑所得」に該当する場合

開業届は、事業所得、不動産所得、山林所得を生じる事業を始めた人が提出するものです。副業で得ている収入が、以下のような継続性のない一時的なものである場合は、「事業所得」ではなく「雑所得」に分類される可能性があります。

  • フリマアプリで不要品を売却した収入
  • 年に数回程度のスポット的な業務委託
  • 趣味の延長で得た少額の収入

雑所得の場合は、そもそも開業届を提出する義務がありません。自分の収入がどちらに該当するか判断に迷う場合は、税理士や最寄りの税務署に相談してみるのが良いでしょう。

2-3. 事業内容がまだ明確でない、または継続性が低い場合

開業届は、事業として継続的に収入を得ていく意思がある場合に提出するものです。もし、まだ「どんな事業で生計を立てていくか」が明確でなかったり、収入が不安定で継続性が低い場合は、焦って開業届を出す必要はありません。事業の方向性が固まってからでも遅くはないでしょう。

3. 【結論】あなたはどっち?判断に役立つチェックリスト

開業届を出すべきかどうかの判断は、あなたの事業への意欲や状況によって変わります。以下のチェックリストで、ご自身の状況と照らし合わせてみましょう。

【こんなあなたは「開業届を出すべき」】

  • □青色申告でしっかり節税したい
  • □事業を本業として、これから大きく育てていきたい
  • □屋号名義の口座を使って、取引先からの信頼度を上げたい
  • □将来的に融資や補助金を利用して事業を拡大したい

【こんなあなたは「開業届を出さなくても良いかも?】

  • □失業保険(基本手当)の受給を最優先したい
  • □副業での収入が少なく、一時的なものだと考えている
  • □自分の事業内容がまだ明確になっていない、または継続性が低い
  • □自分の収入が「事業所得」か「雑所得」か判断に迷っている

まとめ:開業届はあなたの事業の重要な第一歩

開業届は、事業開始を税務署に知らせるための重要な書類です。提出は義務であり、出すことによって節税や信用確保といった大きなメリットが得られます。

特に、青色申告で最大65万円の控除を利用したい人や、今後も継続的に事業を拡大していきたいと考えている人は、早めに提出することをおすすめします。一方で、提出する際は社会保険や扶養への影響など、注意すべき点も理解しておく必要があります。

もし開業準備や税務に関してより詳しく相談したい場合は、専門家やコミュニティを活用するのも一つの手です。

例えば、フリーランスコミュニティのNoBelongsでは、仲間や専門家と一緒に、開業準備から仕事の取り方まで相談できます。興味がある方は、ぜひ、Nobelongs公式サイトをご覧ください。

【監修者のプロフィール】

上垣 梨路(うえがき なしろ)
中小企業診断士・AFP。経営戦略やキャリア形成をテーマに、若手フリーランスや起業家の挑戦を支援している。

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